東葛経営活性化協会コラム 第11回

ウイズコロナからアフターコロナへ向けた中小企業の経営転換のために

 筆者は金融機関で融資審査・事業再生業務に携わっている。コロナ禍で売上規模が縮小し運転資金確保のためや事業再構築に向けた設備投資のために融資を受けたい経営者と日々向き合って仕事をしている。

コロナ禍で多くの中小企業は赤字転落し、債務超過企業が増加している状況は日々の経済ニュースを見ていれば想像に難くはないだろう。ただし、コロナが流行して3年経過し、なおも大幅な赤字を計上している会社があまりに多いことに筆者は危機感を覚える。「赤字企業は市場から撤退すべき」、「成果が伴わないようなら廃業」といった大上段の正論もあるかもしれないが、中小企業は日本の99%を占めており、かつ労働者も全体の約70%は中小企業で雇用されている。赤字が続いて廃業・倒産が増加すれば、日本全体で失業者が大量発生して国民生活に支障を来たすことが起こりうるのである。コロナが流行して3年、ここまでは国の緊急融資や持続化補助金などを活用した資金補填及び融資実行後の返済元金据置猶予にて何とかもちこたえてきた。しかしながら、元金据置期間を長く見積もっても、あと1~2年のうちに終了し元本の返済が開始される。返済できなければ資金繰りに支障を来たし倒産企業は増加するだろう、借入に依存しがちな中小企業にとって月々の元本返済が数百万円以上であることも珍しくはない。資金繰り破綻までのタイムリミットはすぐそこまで迫っている。

そのような経済環境において赤字体質となった企業は早急に黒字化に向けた取組が求められる。そんなことは分かりきったことであるし、コロナが流行して1年経過する頃には「コロナに対応したビジネスモデルの転換」、「不採算事業のスリム化による諸経費の削減」等々、経済誌や省庁などからこれまで再三に渡り、経営転換の必要性がアナウンスされて経営者にも十分に周知されているはずだった。しかしながら、4年目に突入しようというこのコロナ禍において一つの大きな問題点は「変われない中小企業の実態」にあると思う。毎日経営者の相談を受けている中で中小企業の経営者が苦悩していることは「経営転換する方法が分からない」、「どのようなビジネスモデルへ展開できるのか絵が描けない」ことである。中小零細企業にとってはビジネスの経験が地域社会の狭い世界の中でのものでしかなく、これまで取り組んだことのない新しいビジネスの絵が描けないのである。そもそも家族経営の企業も多く、ヒト・モノ・カネといった経営資源が極端に少ない中小企業にとって経営転換はハードルが高いことが原因にある。

 では、中小企業の経営転換には何が必要なのか。コロナ禍において早急に黒字転換した企業と赤字体質のままの企業の違いは何なのか。筆者はコロナ禍において数百件の企業の決算書と社長の苦労話を見聞きして黒字転換に成功した企業にはいくつかの共通点を見つけた。

➀コロナで営業が自粛される期間に自社の経営について反省して自社分析を尽くしている

②自身の人脈や士業、金融機関などのつてを活用して外部に相談している

③コロナ禍において追い風になっている市場へ進出している

代表者の人的素養にもよるところはあるが、主に共通している点は自社の経営について見つめ直し、外部専門家も活用しながら自社の強みを活かしてコロナ禍の厳しい外部環境の中でもより好条件の事業領域に進出していることがある。

具体例を挙げたい。

ゴルフ練習場経営から屋内ゴルフ練習用芝マットのインターネット販売業へ転換した事例

巣ごもり需要からインターネット販売市場が急成長している点に着目し、ゴルフ練習場で使用している人工芝を裁断して家庭内パターゴルフ用マットを製作しネット販売して売上急増。自社で提供しているサービスについて家庭でも提供できないか検討した結果、使用しているモノを異なる場所で同じ顧客を対象にインターネット販売市場へ進出することで成功した事例。地方銀行のコンサルティング部門へ相談して事業再構築計画を策定した。

・フットサル場の経営から障害を抱えた子供向け学童保育事業へ転換した事例

外部環境に左右されにくい需要がある障害者福祉事業に着目。自社の所有しているフットサル場がコロナ禍で遊休化してしまう中で有効利用について検討し、障害者のリハビリにスポーツが注目されている点に着目、フランチャイズコンサルを利用して障害者福祉事業へ進出、事業再構築補助金を活用して事務所の一部を改装し障害者向け学童保育として毎月の固定売上を確保した事例。

・海鮮居酒屋を廃業して冷凍干物食品の宅配事業へ転換した事例

コロナ禍で営業自粛を強いられた飲食店において店舗の人気メニューであった魚のインターネット販売を開始。日持ちのする干物として商品開発しネット市場へ販売、店舗を持たない経営かつネット販売も完全受注生産とすることで固定費・原価を削減し収益改善した事例。よろず支援拠点の無料専門家相談を活用して経営計画を策定した。

他にも経営転換に成功した多くの事例はあるが、主に共通することは自社のサービスを見直して改良を加え、コロナ禍でも比較的好況な市場へ進出し、かつ経営計画の策定においては銀行のコンサルティング部門や中小企業診断士などの専門家が在籍する国の相談機関等を活用している企業が多い。

コロナ禍において経営転換をするといっても、やみくもに新しいことを始めても新規事業のノウハウがないと失敗するリスクは高い。巣ごもり需要が盛況だとの理由だけで、これまで自社で取扱ったことのない商品のネット販売を開始して品質管理や在庫管理ができずにものの半年ももたずに撤退する企業のなんと多かったことか。経営転換に必要なことは全く新しいことを始めることではなく、自社でこれまでうまくいっていた要素を活かして新しい市場へ進出することなのだ。そして新しいビジネスモデルを描く上でビジネス経験の豊富な専門家へ相談して新事業の計画を策定していることも共通している。新しい事業領域へ進出する上で専門家の先人の知恵が非常に役に立っているようだ。

中小企業は経営資源が少ないとは言ったが成功した中小企業には少ない経営資源の中に他社との差別化を実現しているコアコンピタンスが存在する。例えば長年営業している居酒屋にとっては常連客が離れないその店の味や雰囲気がコアコンピタンスであり、コロナで顧客が来店できないのであればその味と雰囲気を家庭で楽しめるようにサービスを改良するなどの工夫ができる。事業が好況なうちは何が自社のコアコンピタンスであるかを熟知している経営者は意外に少ない。今回のコロナという未曽有の事態においてこれまでにない窮境に立たされて初めて自社の経営について振り返りをすべき機会が生まれており、改めて自社の経営の強み、弱みについて分析し、自社のコアコンピタンスを洗い出すことが中小企業の経営転換への第一歩となるだろう。

東葛経営活性化協会 会員