東葛経営活性化協会コラム第33回

2024年問題とモーダルシフト 新しいロジスティクスの形成

 トラックやタクシーなどのドライバーの残業時間に上限が課せられることによる稼働率の低下が様々な問題を引き起こすと懸念されていた2024年問題であるが、法規制が課せられた2024年4月1日より半年が経過した。巷ではどのような影響が起こっているのだろうか。以前から、ドライバーの労働時間が減少することで稼働率が低下し、物資の輸送に通常より長期間かかることや労働時間の減少による賃金の低下が人材の流出を招き人手不足による更なる輸送効率の低下が懸念されていた。輸送に時間がかかることは生鮮食品の品質管理の問題や、部品や材料調達が必要な製造業における生産工程の長期化など企業活動の停滞に直結する。2024年問題は日本経済にどのような影響を与えているのだろうか。

現段階では明確な数値が発表されていない状況にはなるが、実際にドライバーの労働時間の減少が収支に直結する物流業界では稼働率の低下による売上減少は避けられない。経済産業省の事前の調査によると、労働時間に規制がかかることにより輸送能力はコロナ前と比較すると約14%不足するとの見込みがある。これは営業用トラックの輸送トンに換算すると約4億トンの試算となる。輸送能力不足による物資の配送遅延などの問題が企業の生産性低下につながると懸念されている上に、稼働率の低下による減収をカバーするために運送会社が運送料を上げて採算を維持するとなれば、運送を依頼する側の企業にとっても経費負担の増加につながり、しいては物流に携わる全ての企業の収支の悪化、生産効率の低下につながっていく。2024年はこうした問題が現実化しており、物流業界では先行きが不安視されている。システム導入により運送効率の向上を図ったり、短時間労働が可能な副業人材の活用を促進をするなど運送会社も企業努力を続けているところではあるが、昨今の燃料費の高騰、物価上昇の動向も相まって2024年は全体的に経費上昇の負のスパイラルに見舞われているというのが巷の現状のようだ。

筆者は審査業務において物流業界に携わる多数の企業の決算書に触れる機会があるが、ここ半年で目にした約100件の決算書において見られるおおまかな傾向は売上増加と経費増加による増収減益である。コロナ収束による経済活動の活発化により売上が増収傾向であるとともに上記のような理由から経費負担も同等以上に増加しており、売上の増収分を経費負担の増加分が相殺してしまい収支はコロナ禍よりわずかに回復した程度といったケースが大半である。ようやくコロナが収束して回復に向かう日本経済において物価高騰、運送費の増加といった経費負担の問題が足かせになっている。2024年問題は経済全体の経費負担の増加といった形で影響を及ぼしていると見られる。

一方で運送の手法がトラックから船舶や鉄道、航空機へシフトするモーダルシフトが活発化している。運送大手の日本通運では鉄道と内航船を使用した企業向けの小口輸送サービスを開始。従来船舶や鉄道による輸送は小口ロットに対応しておらず、企業側が依頼する際に積載する荷物が不足しロットに見合わず運送料がかさんでしまう問題があったが小口ロットを取扱対象とすることで多品種の部品などを少量ずつ運びたいメーカーなどを中心に利用が進んでいる。船舶や鉄道を利用した運送においては一度に運ぶことができる貨物量はトラックより遥かに大きく、運送を請け負う側が管理の煩雑な小口ロットに対応可能であるならば貨物量の確保さえできれば運送料の高騰が抑えられる見込みである。

また、JR貨物においては全国各地で鉄道輸送に対応するための貨物持ち込み拠点を増やし、基幹駅においてトラックからのコンテナ積み替えをスムーズに行うための拠点を設置するなどトラックから鉄道へのモーダルシフトを促進する取組を行っている。トラックによる長距離輸送がドライバーの労働時間の問題で規制されるとしても、こうした鉄道による長距離輸送とトラックによる短距離輸送を併用することで今まで以上に輸送効率を上げたりコストダウンすることも可能になる見込みはある。これまで片道1000キロメートル以下の輸送はトラックが中心だったが、今後は貨物列車での代替も見込める状況にある。

その他、ANAホールデイングスでは国内の航空貨物料金を昼間限定で最大10分の1に引き下げるなど空輸においてもモーダルシフトの対応が進んでいる。定期旅客便の貨物スペースを活用した輸送で、企業だけでなく個人からも申し込みが可能であり、料金もトラックと同等となっている。

こうした各企業のモーダルシフトへの取り組みを考慮すると、従前のトラックに依存した輸送だけでなく船舶・鉄道・航空の新しい輸送手法をうまく活用することが企業の経費負担の削減につながることは明確だ。むしろ輸送時間のかからない鉄道や航空機を近距離のトラック輸送と組み合わせて使ったり、大口ロットでの船舶輸送を活用したりすることが運送費の抑制につながるケースも出てくるだろう。

そういえば、コロナで巣ごもり需要といった言葉が流行し、個人のネット注文した商品を各自宅まで配送するのにクロネコヤマトが個人配送業者への委託業務を強化したことも記憶に新しいが、近距離小口配送と長距離大口配送、それも陸路、海路、空路とロジスティクスのバリエーションがコロナ禍からアフターコロナにかけてのここ数年で大きく広がったことになる。2024年問題によりモーダルシフトが活発化している今、近距離と長距離、小口ロットと大ロット、陸路、海路、空路、船舶、鉄道、航空機と企業は新しいロジスティクスの有効活用を求められている。アフターコロナでビジネスチャンスは拡大している中で物価・燃料費・人件費の高騰が足かせとなっている今、企業の生産性向上、経費削減に向けて新しいロジステイックスの形を検討すべき時がきている。企業は今の輸送形態が自社にとってコスト面で最適かどうか、改めて検討が必要だろう、輸送手法の多様化により選択肢は大きく広がっている。

東葛経営活性化協会 会員