東葛経営活性化協会コラム 第17回
今回のコラム執筆も、はや4回目になった。日本と米国に実生活基盤がある立場から、最近の日本の印象を述べてみたいと思う。
■ 数か月ごとに日本と米国東部を往復していると、日本もコロナやウクライナ問題による影響からやっと動きだしたか、という感想を持つ。しかしながら正直にいえば、多くの物事に対して動きがとにかく遅く、お国柄の大きな差異を感じざるを得ない。以下にいくつか例を挙げて比較する。
- コロナ水際対策:日本は先月のゴールデンウイーク前に“日本人を含めたすべての入国者”に対する厚生省主導の入国管理アプリの運用をなくし、ワクチン接種証明や書式と方法を詳しく規定した入国直前の陰性証明書の提出が不要となった。アプリ運用前は全ての入国者は細かな書類対応を強いられ、アプリ運用後でもその内容確認に多大な人数と入国時間を費やしていたが、2022年後半からシステムが改善され入国はかなりスムーズになっていた。今回の変更により海外との人流ハードルがなくなり、2年以上のほぼ鎖国状態からコロナ前の状況に戻り、一般旅行者のインバウンド需要喚起やビジネス往来にとって状況が大幅に改善された。これに対して米国は、目的に関わらず国籍保持者と永住権保持者の出入国は2022年当初から制限はない。それ以外の入国者には必要項目を規定した書式を定めないワクチン接種証明のみを要求し、その確認は政府機関ではなく各国出国時の民間航空会社に求めていたが、2023年の5月から撤廃され完全にコロナ前の状況に戻った。この確認は2021年までは国籍保持者と永住権保持者にも求められていた。
細かく慎重でルール好きなお役所感のある政策と、基本事項のみのスピードと合理性を重視した政策との差異を痛感する。
- マスク着用:日本は今年(2023)になって自己判断にゆだねられたがそれ以降も着用率は高い。米国は現時点で着用者を見かけるのは稀である。多人種でアレルギー等も多様な国民性の中、マスク自体がそもそも一般的ではない。単純化をするつもりはないが、感覚として、多くの事に受動的で、匿名を好み、目立つ事を嫌い、事ある毎に安全安心を旨とする国民性と、多くの事に能動的で、自己主張と非常に幅広い多様性がデフォルトの国民性の相違に関係がある気がしてならない。
- 経済状況:経済が低迷し異次元の金融緩和を継続してきた日本では、コロナ禍やウクライナ問題で更に状況の悪化した民間企業に下支えの財政出動や金融緩和が現在も継続され、立て直しや転換、構造改革の猶予が与えられ、賃金上昇政策も勧告された。しかし本来の経済刺激策としての財政出動や金融緩和が恒常的下支え政策として継続せざるを得ない悪循環になり、猶予を有効活用できず、賃金対応もできずにいる中小企業も多く残されている。さらに通貨金利差や投機による異常な円安で、エネルギーや食糧をはじめとする自給率の低い日本ではあらゆる物価がじわじわ上昇中で、私見だが、今後高騰してかなりのインフレ危機にあるのではないかと思われる。インバウンド需要は脚光を浴びているが、アウトバウンド需要は円の価値大幅低下で簡単な話ではなく、輸入品価格高騰で企業活動へも影響が大きいはずだ。一方で、もともと個人や中小企業がチャレンジできる経済システム(概要は2022年6月コラム参照)を持つ米国では、2021年後半以降の財政出動や金融緩和策が刺激策として成功し経済が復興し賃金も上昇し、コロナ禍以前に戻った感があるが、インフレが急激に進み、2022年の3月以降から逆に複数回の金融引き締めに転じて現在に至り、やっとブレーキの兆しが見えてきた状況である。私見だが、日本の経済現状は米国のそれの周回遅れ以上であり、今後の経済展開や企業活動を予測する上で、また経済システムで何を参考とすべきかを理解する上で、2国間比較は非常に興味深い指標になると思う。
■ 2国間比較と言えば、学生時代から現在に至るまでの数十年間に米国で経験して“いいな”と思った事が、のちに日本で話題となり流行してビジネスネタになったいくつかの事例がある。
ここにいくつか紹介してみたい。
- アウトレット:40年前の話で恐縮だが、当時為替も含めて高値の華であった西海岸アウトドアブランドが、カリフォルニア州オークランドの倉庫街で、季節はずれの売れ残りや少しの傷がある商品や工場直送品を格安で提供している事を知り、“アウトレット”の存在を初めて知った。30年前の米国赴任時にも、アウトレットは地元のショッピングモールとして一大展開している場所をよく活用したが、合理的なシステムで日本でもはやるに違いないと思っていた。案の定、数年後に規模は小さかったが日本初のアウトレットが合弁資本で開業した。ちなみに倉庫街で購入したのは今では一般的な“THE NORTH FACE”のグースダウンジャケットであるが、作りが良いので現在も現役で役立っている。
- アウトドア・キャンピング:同じく40年前だが、自然に恵まれた広大な国土の米国では、ごく一般的な日常として、自宅にはアウトドアグリルやスモーカーがあり、地方自治体・州立・国立の公園には備え付けグリルをはじめ多数のキャンプ場やピクニックグラウンドが非常によく整備されていた。したがって関連用品やキャンピングカーを含めた需要は多い。野球場の駐車場でピックアップトラックの荷台ゲートを開けた上でグリルをしながらプレーボールを待つテールゲートパーティーはアメリカ人の楽しみ方の一例だろう。生活をエンジョイする文化は日本へも徐々に浸透し、ブームは明らかに追従してきている。
- スポーツエンターテイメント:これも数十年前だが、プロやカレッジのスポーツ観戦スタジアムにはVIP boxが併設され一般使用のみならずビジネス接待等で有効活用されていた。大相撲の升席といったところであるが、米国のそれはずっとアップスケールであり、レストラン、プール、ホテルが併設されている所もある。プロゴルフトーナメントにはVIPスタンドがあり、赴任先がスポンサー企業だったこともあり使わせてもらったが、単なる観戦以上の総合エンターテイメントとして、ビジネスの場で欠かせない。また日本ではまだまだ一般的ではないと思うが、ゴルフ場の使い方も柔軟で、場所にもよるがメンバーは18ホール回る必要はなく自己都合で子供連れやペット連れでも数ホールのみのプレーが可能であり、レストランのみの利用や野外の結婚式会場としてもよく使われる。
- スポーツフィッシング:ルアー釣りで”釣りあげてリリースするという文化”は日本の乗り合い船や岸壁釣りとは範疇を異にしたジャンルであり、頭脳でファイトするスポーツとして、その後日本にブームが定着した。むろん米国でも、食材捕獲のエンターテイメントとしての釣りももちろん盛んである。
- SUV: 1980年代後半に赴任した時、米国では4輪駆動車が流行っており、COOL!と言われていた。もちろん今でも人気はあるが、日本では2000年以降にブームとなった。ちなみに米国で初めて購入した車は89年式SUVでガレージ保管し日常的に使用し現在に至っている。余談だが、さすがに最近はめったに見かけない車種の為、時々声を掛けられる。
- ナンバープレート:やはり同時期の話だが、米国では登録時点で前例がない限りアルファベット・数字を自分で組み合わせてオリジナルプレート化できる。通常プレート代に追加料金を払えば、メッセージ、名前、イニシアル等、基本は公序良俗に反しない限りOKである。また背景の図案も数種類から選択でき、その後も記念図案が追加、削除されていく。当時赴任者の間で細君の名前をプレート化するのが流行り、日本の女性名のプレートを付けた車が何台も走っていたのは笑い話である。日本ではかなり後になって図案柄が選択できるようになってはいる。また米国では30年以上前のモデル(旧車)はアンティークプレートを選択でき、年間走行距離や通勤で使えない等の使用制限は多少あるものの、車両登録税が無料になる。更なる理由は、北米ではT型フォードにいたるまで旧車をリビルドし、アンティークカーやクラシックカーをはじめカーレース、改造車の愛好者も非常に多い事だろう。これも自己主張と合理性、規制が緩い事の一例であり、何かとルールや規制が多い日本とは大きく異なり、自由な発想が具現化されて面白い。
- クラフトドリンク:所謂地ビール、ローカル醸造所のスピリッツ(ウイスキー、ジン等)であり、北米でここ10数年前から雨後の竹の子のように流行っている。元々禁酒法時代に密造酒醸造(ムーンシャインとして今は合法的にスピリッツの一部として販売されている)が盛んだった事を考えるとその土壌は十分に理解できる。ちなみに米国住所のある大学街にも、ここ5年来でクラフトビール6か所、スピリッツ2か所が新規開業し大いに流行っている。キッチンカーとタイアップし、ライブ音楽も含めて醸造タンク横で地産地消、観光地ならではの賑わいを見せている。中には製品を日本に小ロット輸出しているメーカーもあるから驚きの発展である。また別の州だが、ビジネスで知り合ったアメリカ人で退職後に投資して趣味のビール作りをクラフトビールビジネスに展開している友人がいる。日本の地ビールもコロナ禍の影響はあったものの、ここ数年来増加中であり、米国トレンドが日本の新規スモールビジネスに飛び火している良い例だと思う。日本のビジネス展開は日本移住の米国人が開始しているケースも多く、海外の新規な多様の価値観が日本にもたらされている。現在の異常円安はある意味海外投資を呼ぶチャンスではあると思うが、いつまで継続するかは大変不透明である。タイミングを逸せずに、海外主導の新規アイデアが生かせるかどうかが、ルール大国日本の規制緩和スピードに影響されるとすれば、大変情けない。
書き出してみると次々と出てくるので、このあたりで打ち止めにするが、次回以降機会があればまた紹介したい。何かの足しになれば幸いである。
■ 経済発展のポイントとして痛感することは、前提として、合理性を生かすための規制緩和や、リスクに立ち向かい新規分野にチャレンジしやすく投資を呼びやすい、そして下支えに終始するのではない、政府のシステム作りが必要だと感じる。また事業主としてスピード感をもって必要とされる事は、救済を求めるだけでなく、既存事業をアセットとして多方面へ総合プロデュースできるか?多様な価値観や相違のエッセンスを事業にどう反映させるか?本当に求められている事・モノはなにか?どのように顧客にサービス提供をするか?持続的にどう利益追求できるか?等を見極めるセンスである。クラウドファンディングの有効活用も含め、このポイントに関して、東葛経営活性化協会の活動としてお手伝いしていくことができれば大変喜ばしいと思う。
東葛経営活性化協会 顧問 安田 智


