東葛経営活性化協会コラム 第9回

 近江商人の経営哲学の一つとして有名な「三方よし」という言葉がある。商売において、売り手と買い手の当事者が満足するのは当然のことだけでなく、世間(社会)のためになるべき、という考え方である。
同様に、「先義後利」という中国の儒学・荀子の「義を先にして利を後にする者は栄える」の教えがある。義を通し、人の役に立つ商売を行い、商売で得た利益を世のために使う。それが正しい商いの道であると説かれており、経営者であれば耳にする考え方である。
自らの利益のみを追求することをよしとせず、顧客を含めた地域社会全体への貢献を重視した「三方良し」や、「先義後利」の精神は、現在のCSRやSDG’sにつながるものとして多くの企業の経営理念の根幹になっている。


 しかし、現実には、自社の利益のみを優先にし、経済的合理性のみを追求している企業が後を絶たない。人や義を優先にするビジネスが完全に置き去りにされているからだ。目先の損得や経済的合理性により忘れ去られてしまいがちだが、人と人の約束や痛みを優先にできる経営者に最後は微笑むと私は考える。


 私が会社員だった頃、韓国の取引先の財閥系の電子部品メーカーの社長と知り合い、一緒に仕事をしていたことがある。その社長は、高校卒業の叩き上げであり、当時は親族や、親会社からの天下りによる人事が慣例だったが、実力で上場会社の社長にまでなられた頭脳明晰であり、誠実で魅力的な方だった。
その社長に就任直後「どうやったらそんなに成功できたのですか?」と私がうかがうと、即座に社長は「運だよ。運。運は人が持ってきてくれるんだ。私は出会った人を何よりも大切にしてきただけ。」と仰っていた。そんな方が発した「運」という言葉が私には当時、理解できなく、謙虚だからだとも思っていた。
しかし、20年近くにわたり自社の経営に携わってきて社長の気持ちがわかるようになった。私達が人生の中で出会える人は、世界の人達の中でほんの一握りであり、その中で日常的に付き合える人などはごく少数である。 
商いを通じて相手に尽くし、相手から信用を得て、応援をしてもらえるようになっていく。
世界においても同様であり、三方良しや、先義後利の精神に相通ずるものがある。このような経営姿勢こそ、最も成功に繋がる経営者の在り方であり、成功した経営者に共通して言えるのは、人との和ができて人に助けてもらえる人なのだと思いに至るようになった。


 翻って、今のVUCA時代で特に、中小企業が必要なのは、自己の利益と公益との両立を目指すことである。三方よしだけでなく、「作り手よし、未来よし、地球よし」を加えた「六方よし」のSDG’s的な視点で責任をもって行動をすることの大切さを認識する必要がある。そして、中小企業や経営者を支援していく我々も同様に、そのことを踏まえ、多様な価値観や考え方を尊重しつつ、時代の変化に応じた対応が必要になることを忘れてはならない。

東葛経営活性化協会 平沼志郎