東葛経営活性化協会コラム 第23回
先日、4年ぶりに中国へ渡航する機会があったので、現状の中国を取り巻く状況や、今後のビジネスの方向性を中心に感じた事を書き記す。(上海を中心に、数都市回ってきた。)中国は、ゼロコロナ政策や、ビザ発給制限等の影響により、前回(コロナ禍前)と比べて日本人の数が大幅に減少し、人流や物流等は比較的落ち着いている印象が強かった。
そういった影響もあり、昨今、中国で事業拡大を見込む日本企業が初めて3割を割り込む等、中国経済の先行きに不透明感が広がっている。マクロ的には中国経済が明らかに減速しているのは既知のとおりであり、中国に対するデカップリングやデリスキングの声が日々高まり続けており、問題化している。
しかしながら、多くの情報が飛び交い、懸念要因も多々ある中、企業はなぜ中国とビジネスをしているのか、中国から何を欲しているのかを、今一度原点に戻って考える局面に差し掛かってきていると捉える必要がある。
中国では、1970年代後半から改革開放政策が始まり、市場経済に移行する手段として外資誘致が図られた。多くの政府からの助成金や税制上の優遇政策が外資系企業に与えられ、経済を活性化させるために、経済開発区や工業園区等が設けられた。その後、「世界の工場」と呼ばれ、自国経済成長の原動力となった製造業の変貌が著しい状況である。
その中国の製造業が目指す方向を示した「中国製造2025」では、10の重点産業に特化し、中国の国際競争力や中国製品の品質向上、イノベーションを促進するとともに、製造強国となるための国家戦略目標が明確に描かれており、「デジタル化」と強くリンクしている。
身近な例では、我々が使っている「iPhone」等のハイテク製品からローテク製品まで、あらゆる製品を中国で製造している。その結果、中国の輸出の世界市場におけるシェアは世界1位であり、2022年の貿易輸出額が過去最高(3兆5936億ドル)を記録した。
世界から孤立しているように映る中国だが、世界の中国製品への依存度はむしろ最高潮に達している。中国製品が「モノづくり大国」となり、世界での存在感が増しているのは紛れもない事実である。これまでは低価格を売りに競争優位性を築いていたが、これからは大量のビックデータを背景に、世界トップレベルのAI技術力を駆使した「モノづくり大国」が、高次元にDX化された製品で世界市場を席巻していくのはそうと遠くないと思われる。
さらに顕著なのは自動車産業であり、国家主導により「EV産業」が大きく成長している。中国EV大手「BYD」は、すでに「テスラ」を超えて最もEV車を販売している会社である。私も、上海市内をタクシーで移動する際、EV車に乗車することがあったが、デザインや乗り心地も含め、総じてレベルが高いと感じられた。更には、自動運転技術の国家レベルでの推進等も含め、世界の自動車産業に今後大きなインパクトを与えてくるはずと思えた。
そして、「政治体制の強さ」を今回改めて痛感した。善悪は別として、全国民に対して国の思想やビジョンが浸透していることには驚かされる。中国政府は人民に対して「復興」という言葉をよく多用する。これは、「我々中国はかつて、世界的な超大国だったのに、近代に入り欧米列強や日本に侵略された歴史を跳ね返し、必ず自分たちが強くなって見返そう」という民族団結のメッセージである。
「中国をもう一度復興させ、世界に冠たる強国にする」国家としての大きな夢を描いたこのストーリーは、多くの中国人民に共有されているが、日本では、国単位で一つのストーリーを描き全国民に共有するのは、現状の国情ではもはや相当難しいように思われる。
会社経営において、企業の方向性や考えを従業員に説き意思統一を図るのは、ごく一般的な行為である。それを国家レベルで行えることは、経済活動にも非常に大きく影響するものであり、大きな強みと感じさせられた。それゆえに、専制的に政治力を行使できる政府と一体型の経済というのは、AI時代においてはポジティブに作用するものと思われる。
このような中国ビジネスの新たな潮流により、変貌した「世界の工場」や「巨大な市場」と関わるには、多くの情報をタイムリーに収集し、自社にとっての有益な情報を選別し、読み解き、意思決定が下せる中国に対する長年の経験が必要となる。その上で、中国のスピードに遅れない経営スピードが、自社の中国ビジネス戦略にとって最も重要な選択肢の一つとなりうる事を捉えておくべきである。
そういう意味では、中国に対する認識を顧みずに、パラダイムシフトが示す方向性を見誤ると解決が遠のいてしまうものと考える。「彼を知り己を知れば、百戦殆うからず」(孫子)の言葉にあるように、今後の中国との関わり合いにおいて、中国を知り、自社を知ることこそが問題解決への突破口となるのを、今回の訪問で考えさせられた次第である。
東葛経営活性化協会 平沼志郎


