東葛経営活性化協会コラム 第28回

今回のコラム執筆は昨年の6月以来となる。

前回同様に日本と米国に実生活基盤がある立場から、両国比較を通して常々感じてきた事柄について、まず述べてみたいと思う。

コロナ禍以降経済が回復し、その度合いがむしろ過熱気味でやっとブレーキがかかり始めたかと思われる北米の状況を肌身に感じていると、日本経済の状況が本当に心配になる。

 2024年に入り日本政府と歩調を合わせた日銀はやっと重い腰を上げて、30年間にも及ぶ異次元の金融緩和政策を正常化する方向へ舵をきった。他国との通貨金利差縮小のトレンドにはなり始めたが、コロナ禍後の異常円安に全く歯止めがかからない。財務省も含めてその都度口先介入を継続するも、世界の投資家や投機筋からは全く相手にされず、大幅円安は止まらず、円の価値はわずか数年で35%以上も下落した。特に4月はわずか一か月で10%以上も下落している。政府は“急激な変化は好ましくない”とはコメントするが、何もしていない事実は明確である。日本人の円資産が世界通貨ベースで同じ割合で縮小している事は“知らぬが仏”では済まされないだろう。私見だが、中央銀行と政府は基本的に独立しているべきであり、経済発展を長年の緩和政策に頼るやり方は失敗し、当初から無理があったということだろう。急激な円安はインバウンド需要と日本の輸出産業、海外からの投資に限っては元気を与えているが、エネルギーや食糧をはじめとする自給率の低い日本ではあらゆる輸入品価格が高騰する方向であり、影響緩和の為に原油など一部政府補助金が投入されているものの、ばらまきには限界があり、原材料等を輸入に頼る各産業や国民の日常生活には多大な影響が及んできている。日銀の用いる指標では“まだ物価影響は出ていない”との立場だが、学者先生や審議委員たちは果たして街中で買い物をしたことがあるのだろうか?と疑わざるを得ない。ようやく今年になって、長年内部留保をため込んだ企業や、円安効果で見かけの決算は上向きの輸出系大企業や、通貨安に影響されにくくインバウンド効果による好決算の産業・事業体の企業は、政府主導で賃金上昇トレンドの口火をきり、大手企業を中心にその効果は出始めた。経済刺激策として、経済サイクルのどこを突破口とするかは卵と鶏の関係にも似ているが、政府要請の賃上げトリガーが持続的に働く事を期待するしかない。しかし人的投資は本来経営者判断であり、政府主導でないと賃上げしないという日本企業も全く情けない話である。まして日本経済の屋台骨を支える多くの中小企業がどこまで追従できるのか不明確な点も多く、これからが正念場だと思われる。失われた30年を考えるに、企業は大規模緩和、現状維持甘んじてイノベーションを生み出す事をおろそかにし、内部留保をため込み、新規事業開拓や設備投資ではなく、現行事業の効率ばかりを求め、賃金を経費とみなして削減し人的投資を怠ってきた。また本来淘汰されるべき企業も多数残ってきた。この現在のツケは甚大だと思う。一方で、日本の消費者もデフレマインドから抜け出せずに安価のみを求めつづけ、商品価値やサービスに見合った価格を受け入れる土壌が育まれにくい社会に慣れ親しんでいる。健全経済を考えれば消費者も意識改革に目を覚ますべきだろう。守勢のみの30年といったところだろうか。

 少子化対策や3K職場で表面化し話題となった海外労働力は、入国ハードルを下げたところで、円安で稼げなくなった日本では来日し就職する理由・意味が既になくなっている。日本への留学生も同様で、日本の大学にどれほどの魅力があるのか、そしてまた日系企業に就職する理由も見あたらない。教育も切磋琢磨の付加価値創造を怠ってきたのではないか?基本は国に魅力がなければ人が集まらないのは自明の理である。多様性を声高に歌う昨今、そもそもの多様性の機会を自発的に失っている。従って、本当に日本文化や環境、日本そのものに興味を持った人が一部であっても日本社会に溶け込んでいる事実は、心底感謝に値すると思われる。また、安価で勤勉な日本人労働力を求めて、台湾、米国を始めとした半導体系海外巨大企業の国内投資が活発化している。思い返すに、30年前に日系企業が安価な労働力を求めて中国や東南アジアに進出した時と全く逆の現象が、皮肉にも発生している。経済問題は毎日の生活に直結する大きな題材である。従って大筋の経済システム改革や規制緩和などに関しては、国民もしっかり意見を持ち、政治に対して積極的に民意を表明し、選挙の争点にしてしかるべきだと思われる。が、残念なことに、政局と政治不信が先行している国の現状では論点も不明確になり、低投票率に安住した政治家がのさばっているのが現状だ。変革への第一歩は主権のある国民が、考え方を取捨選択し“最大公約数の選択の中で投票する”という民主主義の唯一の権利を、今こそ大切に正当行使する必要があるだろう。

安全・安心を旨とし受け身でお上依存の国民性と、個人の自主・積極性を旨とし能動的でないと生きていけないお国柄との違いは十分承知の上で、北米のダイナミックな民意表明に慣れ親しんでいると、”民主主義“が日本に本当に根付いているのか?大変心配になる。

米国はウクライナやイスラエル問題、移民問題さらにはフェイク・権力腐敗で民主主義がゆらいでいるが、其々の問題に対しての国民を挙げての喧々諤々の議論はダイナミックで奥深く、日本の比ではない。

円安問題ついてあれこれ述べてきたが、閑話休題。

 ここからは現在の円安下で追い風の事業ポイントについて雑感を述べてみたい。

インバウンド需要:

 海外視点でとらえた場合、地方創生・地場産業、SDGs・歴史・街並み・企業ポリシー等のストーリー性、匠の技とクラフトマンシップ、高品質、グリーン・リサイクル・環境対応、地産地消等の特徴を生かした、日本独自の商品領域は、高級・高価格帯需要が十分見込まれると思われる。北米においては特に富裕層を含めて、商品のこだわりに反応する顧客層が必ず存在し市場が形成され、プレミアム価格が当たり前である。

商品をいかに魅力ある存在として高付加価値化できるか?海外潜在需要に特化した、新規ニーズ、プレゼンテーション、マーケティングに対応するコンサルティングが必須になってくる。私見だが、インバウンド需要を長期的に発展させる意図があるならば、観光産業は“日本顧客向けの温泉グルメ一辺倒から脱却すべきであり、日本人には当たり前の1泊2日小旅行とかではなく、海外ではデフォルトの週間長期滞在に耐えうるマーケッテイングが必要だと思う。また一般産業として、既存の日本食、日本大衆文化に関係する事業体はブームであり、明らかに強い需要がある。ここに上記の海外視点が加われば更なる強みになり、持続的な産業振興に貢献できるのではないだろうか。

輸出需要:

 輸出と言っても、国内需要が伸び悩んだという理由だけで日本向け製品や余剰品でそのまま事業拡大できるはずもない。上記同様に、商品をいかに魅力ある存在として高付加価値化できるか、海外潜在需要に特化した、新規ニーズ、プレゼンテーション、マーケティングに対応するコンサルティングが必須だろう。

また海外商習慣や規制事項・遵法、物流コストやルート等に関しての詳細な情報と検討が必要となる。

広大な北米は州ごとに税額・規制等が異なり、物流状況も多様な事は念頭に置かねばならない。

蛇足だが私案として、産業に対する政府や地方自治体の補助金は国内従来品が対象だと思うが、輸出促進の名目で、国内事業者の海外新規事業開拓や宣伝・マーケッテイング、商習慣や規制調査・対策等が明確に補助金対象になれば、産業振興に大きく貢献するのではないだろうか。

東葛経営活性化協会としての強みが、この辺りで発揮できれば幸いである。

ここで日本食・物文化の北米マーケティングの機会について、一例を紹介したい。

日本フェスNY:(出典finders.me 2/24/2024

公式サイト:Japan Fes New York  world@japanfes.com

運営団体:Jforward Inc:日本のコンテンツで世界を笑顔に! 

2016年開始の”JAPAN FES New York”は 2023年度では21回開催され、3-11月の毎週末に約1000店舗/回が出店、ストリートを仕切って歩行者天国スタイルで実施されている。

出展者:在NYC日本各店舗、日本が在好きな米国人、“日本からの店舗出店”

場所はマンハッタン・ブルックリン・クイーンズで、ニューヨークを通して日本を知る格好な場となっている。

2024の今年は32回開催(2/17-11/9のほぼ毎週)が発表されている。回数が多いのでかなり参加しやすく、海外進出のきっかけや状況把握にはうってつけの機会だと思われる。店舗は食、着物、伝統工芸品、エンターテイメントアプリ、ソフトウエア、その他のテストマーケティング等多岐にわたるようだ。

 個人や企業にとって経済状況の変化はコントロールし難いが、受け身にならず、積極的に状況を判断して自発的にリスクヘッジしていく必要は痛感する。機会を有効活用して、日本の中だけでは理解しえない多様性と世界標準を能動的に体感し、自ら動くことが本当のリスキリングだと思う。

最後になるが、

日本ではコロナ禍以降やっと最近になってNISA,IDECOを目玉とした投資が話題だが、米国では金利差を有効活用し長期の資産形成をすることは至極当たり前であり、金利のある世界が社会のデフォルトである。これは他の国でも同様であろう。

マイナス金利に長年浸りいまだゼロ金利の日本が、経済健全化の道のりの上でいかに異常な世界であるかは、よく理解したほうが良いと思う。投資はマネーゲームだけではない。リターンを見据えた本来の事業、設備、人的、そして各個人の自分への投資が、広義の経済活動発展の上で大変重要であると思う。

東葛経営活性化協会 顧問 安田 智