東葛経営活性化協会コラム 第27回

事業再生局面における資本性ローンの活用について

 前半は昨今の経済環境及び資本性ローンの制度の概要について触れたが、後半は資本性ローン利用の実務について詳細を記載していきたいと思う。前半と重複する部分もあるが、前提として認識していただきたいことは、資本性ローンは「事業再生を目的とした融資制度」であることだ。他の融資制度と違う点は、通常融資を受けることが難しい債務超過の企業が資金調達できる可能性があるということだ。コロナ禍で赤字転落した企業は債務超過に陥っていることが多く、そのままの状態では銀行から融資を受けることが難しいためこうした資本性ローンを利用することで資金調達できる可能性が見えてくるため詳細に触れていきたい。

 まず、利用の際には事業計画書の策定が必須となる。最低5年分は今後の売上・収支計画を策定し赤字・債務超過の状況からいかに脱却していくかを書面で提示しなければならない。実務的にはまずはメイン銀行の担当者へ相談してもらいたい。メイン銀行とは企業にとって一番付き合いが深い銀行のことを指し、通常は借入している金融機関の中で一番残高が多く残っている企業のことを指すことがほとんどである。現実的な話をすると、債務超過企業は経営状況が芳しくなく、メイン銀行からの追加融資がおりない状況であることが多い。銀行の腹の内としては融資先の経営状況が悪い中でこれ以上自社から追加の融資をすることには積極的ではないが、融資先である以上は債権回収を図らなくてはならず経営状況が今以上に悪化して債権回収が難航するのも避けたいところである。相談を持ち掛ける際には今後の経営改善に向けた計画を策定するので融資を検討してもらえないかといったようなスタンスで臨むとよいと思う。銀行にとっては顧客の経営改善は新たな融資先候補の開拓にもつながるため、真に実力のある銀行ほど門前払いはせず親身に話を聞いてくれるというのが全国転勤で全国津々浦々の地方銀行の対応を見てきた筆者の感想である。当然ながら赤字続きで大幅債務超過の状況ではそれも難しいことがあろうが、黒字転換して数年で債務超過解消が見込める企業であれば対応はしてもらえるだろう。銀行としても顧客の経営改善が見込めるのであれば支援に前向きになるのである。ここで事業計画を策定すればメイン銀行も追加融資などの支援を検討するといった銀行とのコンセンサスの取得及び目線合わせをすることが第一歩となる。

 続いて、実際に事業計画を策定していくことになるが、事業計画の策定をする上で第三者に相談をすることが望ましい。優秀な経営者の中には自身で経営改善計画書を策定しているケースも多々あるが、自社のことを第三者的な立場で客観的に評価することができなければせっかくの経営改善計画書も手前味噌になってしまう。たいていのケースでは公認会計士・弁護士・税理士・中小企業診断士などの士業の方を通して経営改善計画書を策定する。実現可能性のある抜本的な経営改善計画を策定するうえで、第三者的な専門家の目を通して経営改善計画書の精度を高めていくことは必要である。銀行の大口融資先である企業の経営改善計画策定などでは銀行自身が自社のコンサルテイング部門などを通じて顧客の経営改善計画書を策定することもある。要は経営改善に向けた事業再生の絵がしっかりと描けるかというところが資本性ローンの利用に向けて重要なポイントである。

具体的には実現可能性のある経営改善計画であるかどうかが問われる。売上計画をたてるにしても、計画を作るだけであれば100億だろうが1000億だろうが数値を載せることはできてしまうが当然これまでの事業実績からして現実離れした数値では銀行に信用してもらえない。実務的には過去業績が良かった頃の実績値を参考にしながら5年間程度でその頃の水準に近づけていくような現実的な計画がベターである。原価や諸経費についても材料費・人件費・賃借料など具体的な勘定科目をあげて具体的な削減計画を策定することが求められる。容易に「前年比5%削減」などと記載のある経営改善計画書も見受けられるがこれは信用されない。従業員1名定年退職により年間人件費400万円削減、代替人員は契約社員として次年度の人件費は200万円、差額の200万円削減見込み、結果として前年比〇%の削減が可能といったように数値に具体性をもたせないといけない。この具体性を持たせるといったところがポイントで実務的には決算書を毎年作成していて企業の経営状況を数値面から熟知している税理士などが中小企業診断士とチームを組んで企業をサポートして経営改善計画書を策定していることが多い。企業の経営者で特に中小企業では現場畑の経営者も多く、やはり税理士・中小企業診断士などの専門家へ相談しながら経営改善計画を策定するのが近道である。こうして具体的で実現可能性の高い経営改善計画書を策定することが事業再生に向けて必要になる。

 資本性ローンの利用に向けた次のステップは、メイン銀行担当者と共に政府系金融機関の相談窓口へ事業計画書を持ち込むことだ。経営改善計画書を策定支援してもらった専門家の方も同席できると望ましい。メイン銀行担当者と共に経営改善計画書を持参するといったことで資本性ローン利用の必須項目である「経営改善計画書の策定により黒字転換・債務超過解消の見込みがある」ことと「メイン銀行の金融支援が受けられる見込みがる」ことが示せるのである。経営改善計画書を策定した専門家が同席することで経営改善計画書の内容が第三者の目線を通したもので客観性のあるものであることも示すことができる。経営改善計画は単に社長がやりたいことや目標を掲げたものでは駄目で、専門家が第三者の立場で実現可能性のある具体的な内容であることを検証していることが重要なのである。

資本性ローンを取扱しているのは主に政府系金融機関であるが、この政府系金融機関にとっては「事業再生」といった政策項目はコロナ禍からアフターコロナ期の重点項目とされており要件を満たす企業であれば前向きに検討してもらえる。そのためには黒字転換・債務超過解消の見込みがあるとともに今後も継続してメイン銀行からの金融支援を受けられるかどうかが重要になる。

以上が資本性ローン利用に向けた実務ステップになるがまとめると

  1. メイン銀行へ事業再生に向けた経営改善計画の相談を持ち掛ける
  2. 専門家を通して実現可能性の高い具体的な経営改善計画を策定する
  3. 政府系金融機関へ経営改善計画を持ち込む

 コロナ禍で債務超過に陥ってしまった企業も事業再生に向けた具体的な見通しがあれば資金調達が可能でそのための制度が資本性ローンである。コロナが収束して世の中が動き出し上昇局面を迎えている今、いち早く資金調達を実施して市場の需要に対応することは企業の成長だけでなく日本経済の成長につながる。コラムに目を通していただいた経営者の方々には事業再生の手法として是非資本性ローンの活用をご検討いただいてはいかがだろうか。

東葛経営活性化協会 会員