東葛経営活性化協会コラム 第26回

事業再生局面における資本性ローンの活用について

 令和2年からコロナウイルス感染症の影響を受けて4年目の春を迎える。思えばここまで長期間にわたりコロナに振り回されるとは当時誰が予想しただろうか。コロナで外出ができず、人との対面営業を主体としていた企業は大打撃を受けた。大幅赤字が連続し資金繰りに苦しむ中で、銀行には追加融資を断られ、苦難の末に廃業という選択肢を選ばざるをえなかった企業も数多くあったことだろう。今日巷に存続している企業は、そのようなコロナ危機を乗り越えた企業である。売上が半減するどころか全くあがらないなど異常ともいえる時期を乗り越えてようやくコロナが収束した今、生き残った中小企業は新たな局面を迎えている。コロナ禍の苦難の守りの時期を乗り越えて、積極的に事業拡大ができる機会が訪れており景気回復に伴いビジネスチャンスが拡大しているのだ。

 大きな機会といえば、日本に渡航する外国人などがコロナ以前の水準に戻りつつあり、観光地では外国人インバウンド需要が復活した。おかげで当時の賑わいが戻ってきており、北海道や京都、東京など代表的な観光地では人手がすでにコロナ以前の水準に回復したことが報道されている。株式市場では株価が戦後最高値を更新し、不動産価格も各地で値上がり傾向を見せており世の中には確実に需要が出てきていることがうかがえるのだ。これまではコロナ禍で売上を伸ばすことよりは、店舗撤退や事業縮小などにより固定費を削減するいわば「守り」の経営が意識されてきた。飲食店が来店客減少を補うために始めたテイクアウトの営業手法や、小売業者のインターネット販売主体への販売方法の転換なども、売上があがらない中でいかにして売上水準を確保していくかという工夫から生まれたマイナスを補う観点からの「守り」の経営である。

コロナが収束し世の中にヒト・モノ・カネの流れが復活した今、「守り」の経営から「攻め」の経営に打って出る時期に入っている。売上を維持するだけではなく大きく伸ばすための様々な投資的経営が今後の自社の市場における競争優位性確保に確実に必要になってくる。製造業であれば設備投資を行って増産体制をいかに早く整備するか、小売業であれば多くの販売先を確保すべく営業に回り、取扱商品を豊富にして在庫を十分に準備するなど「攻め」の経営へいかにスピーディーに転換していくかが求められる。コロナが収束して需要が大きく回復しているなかでサービスやモノが供給できないことは大きな機会損失となる。当然、そんな状況では他社との厳しい差別化競争に勝ち抜くことはできない。顧客がのどから手を出して欲しがっているところに供給できる商品がありませんでは商売にならない。

アフターコロナの今、企業は「攻め」の経営に向けた準備をスピーディーに行うべきである。既存市場においてすでに差はつき始めている。コロナ禍においてすでにアフターコロナの計画があった企業は今まさにスタートダッシュを切っている。優良企業は急回復し急増している需要に対して十分な供給が行える環境を整備している。コロナで空きテナントとなった好立地の物件を、アフターコロナを見据えて数多くの好立地物件を抑えた某飲食店などは、人の流れが回復した今大きな恩恵を受けている。コロナ禍でも財務基盤が盤石でもともと体力があった企業は、手持資金も潤沢でアフターコロナの需要回復に対応した営業戦略の展開が可能だったことが今につながっている。一方でコロナ禍において業績が悪化し銀行融資を繰り返し受けて融資枠を使い切ってしまった企業などは新しい営業戦略がなかなか打ち出せない状況である。需要は回復したとしてもコロナ禍で手持資金を使い切ってしまい、新しい経営戦略を打ち出そうとしても手持資金の問題で無い袖は振れない状況だ。

 特にコロナ禍で、決算書上借金などの負債が資産額を上回ってしまう債務超過の状況に陥ってしまった企業は銀行からの融資が受けられなくなっている。金融機関によって審査手法は一律ではないが、この債務超過の状況に陥ってしまうと金融機関は融資に消極的になってしまうのが現実だ。コロナで赤字が続いたために、このような債務超過へ転落してしまった企業は数多く存在するだろうが、コロナが収束した今、いち早く生産体制を整備して在庫を確保するなど手を打っていかないと企業は競争に取り残されてしまう。そうならないために「攻め」の経営に転換するにしても先立つ資金が必要であるが、このタイミングで銀行が融資に消極的になってしまっている現況が改善しなければ日本経済に大きな機会損失が発生してしまう。

何か方法がないだろうか、そこで資本性ローンの活用を推奨したい。

「債務超過に陥ってしまった企業が事業再生に向けて活用できる融資制度」それが資本性ローンである。

金融機関関係者にとっては「債務超過」「資本性ローン」などの専門用語は理解できるかもしれないが、一般の方はもとより中小企業の代表者でさえもこの制度について理解のある方は少ないかもしれない。一般の方にも理解が容易なようにかみくだいてこの制度を説明したいと思う。

端的にいうと資本性ローンは借入であるにも関わらず決算書上資本に計上できる特徴がある。

企業が経営のために資金を調達した際に一般的にはローン又は社債などの負債に計上される。株式発行であれば株主から資金調達した分は資本に計上されるが、ローンなどは負債に計上される。ローンなどの負債は毎月割賦金で少しずつ返済していく手法がとられるが、株式などの出資は返済期限がない代りに利益の一定分を配当として株主に還元していく義務が生じる。企業にとって理想なのは、株式などの資本としての資金調達の形式をとって毎月の返済負担が発生しない中で、事業の業績が伸びて株価が上昇するなど好転した際には利益の中から投資家への配当捻出を検討していくことが自社のパフォーマンスと信用を向上させるうえで望ましい。

ところが債務超過の企業やコロナで業績が悪化している企業にとっては投資家から出資を受けることはまず難しい。投資家や金融機関にとっては赤字が続いて債務超過に陥ってしまった企業の株式には手を出しづらいし、金融機関が融資を検討するといっても業績が悪化している企業への融資など内部的な稟議書がスムーズに通らないのは容易に想像できるかと思う。

このような状況下の企業にとって資本性ローンは、活用を検討する余地がある。

資本性ローンを活用する際には金融機関、税理士、中小企業診断士などの専門家を活用して事業計画書を策定することが求められる。5年以上の長期計画の策定が求められ策定の手続きの中で経営者は改めて自社の抱えている問題点、課題、改善策について頭を悩ませながら考えることとなる。専門家のサポートを受けながら、そうして策定された事業計画書に対して融資を実行した金融機関が毎月のようにモニタリングを行い、中小企業が事業計画通りに経営しているかどうかをチェックすることとなる。当然、税理士や中小企業診断士などの専門家は経営者の経営状況を把握しており、個別の中小企業の今後の経営のあり方について深い議論を重ねる。そうして策定された事業計画書が金融機関に提出されて、金融機関において売上や営業利益、経常利益、アクションプランの実行状況などについて精査を行い、問題なければ資本性ローンが実行される。

資本性ローンを活用するにあたって必須となる事業計画書の策定と実行、その後のモニタリングを通じて中小企業は経営がブラッシュアップされていくのである。

赤字が続いて債務超過に陥った企業には何かしらの問題点がありその改善策が建てられないからこそ赤字が続いて債務超過解消が難しい状況であり、専門家に事業計画書を策定してもらうことが黒字化、債務超過解消する経営改善への第一歩となるのだ。加えて、資金調達した借入が資本計上されることで債務超過が解消されればメインの金融機関から再度の資金調達の芽も出てくる。

実務的に資本性ローンを活用する際にはメイン銀行が大口融資先の事業再生に向けて自社の融資と同時に資本性ローンの活用をしたいなどもちかけてくるケースが多いのである。

仮に資産から負債をマイナスした債務超過の数値が10,000千円以下だとするならば、資本性ローンを10,000千円資金調達できればその時点で債務超過は解消するのである。

要点として資本性ローンは、専門家が経営改善に向けた詳細な事業計画書を策定しており、企業がその事業計画に基づいて5年後、10年後には利益体質となり、キャッシュフローの中から無理なく返済がしていけるという見通しが立つことが前提となる制度である。

借入という負債ではなく事業への投資の意味合いをもつ資本に計上されることで決算書上では財務基盤の強化につながり他の銀行融資が受けやすくなるのが特徴だ。

筆者は金融機関の実務の中で資本性ローンの取り扱いをしたこともある。一番のメリットは専門家の知見を交えて長期の事業計画を策定する中で将来的に経営が改善していく見通しが得られることだ。当然ながら、事業計画が夢物語で実現可能性に乏しいものは却下されてしまうため実際に「黒字化ができるか」「債務超過の解消が見込めるか」が具体的に落とし込まれていない事業計画では資本性ローンをうけることはできない。企業の経営資源であるヒト・モノ・カネを活かして黒字転換を実現し、債務超過を解消していく見通しとステップがしっかりと盛り込まれた事業計画が策定されていれば、資本性ローンの融資を受けると同時にメイン銀行の融資も受けられるといった資金調達に相乗効果が発揮されるメリットがあるのが特徴的である。

実際の中小企業事業再生の現場では、資本性ローンを活用する際には、資本性ローンだけでなくメイン銀行や準メイン銀行とも協調融資を取り付けて、中小企業の手持資金を潤沢にしたうえで事業計画通りの経営を行って事業を改善していくといったことが行われている。

コロナ禍で赤字が続き債務超過に陥ってしまった企業(コロナ以前は相応の経営状況を維持していたことは求められる、コロナ以前から赤字であったにも関わらずコロナのせいにして経営努力を怠ってきた企業は融資を断られる。)は資本性ローンの活用を検討してはどうだろうか。まずは税理士や中小企業診断士などに資本性ローンの活用について相談してみることをお勧めしたい。

資本性ローン利用に向けた詳細手続きについては次月触れたいと思うが、コロナ収束して新たな経済環境に向けて「攻めの経営」に転換していくためには手持資金が必要である。コロナで打撃を受けて金融機関からの資金調達が容易でない企業は、資本性ローンの活用について専門家に相談してみてはいかがだろうか。

東葛経営活性化協会 会員